『ボクラノキセキ』1巻 久米田夏緒  : 『AURA』2巻、ただし竜端子は本物です。

 見返して、べた褒めブログ然とした印象がなんなので佳作を。先日ペトロニウスさんがラジオで思い入れを語った『ボクラノキセキ』。

ボクラノキセキ 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

ボクラノキセキ 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

――邪気眼だと思っていたら、本物の異能だった。
 そうした作品として若干の目新しさも無いではないが、本作の見所は「他人とは決定的に違う、自分」を巡って、自分自身に課す意志の問題だろう。

 自分が他人とは違う人間だと、それもどちらかといえば「特別」な意味でそうだと意識したとして。仮に、自分が人とは違う「何か」を持ち、それはとても特別なもので、世界の見方すら変わるもので、けれど他人にとってそれは理解のしようも無く、普通に過ごしているぶんには邪魔にしかならないもので。

 俺は
 版図を拡大せんとする国々が剣と魔法による戦争を永く続けている世界の
 小国ゼレストリア第三王位継承者ベロニカ
 だった
 戦争で死んだ
 妄想ではない
 今生においても魔法が発現した事で確信を持つ
 でも
 否が応でも皆見晴澄として
 この世界で
 生きていかなければならないので                      1巻:P64〜

 冷たい目で見れば、描かれる部分々々のクオリティーの格差が、若干のパッチワーク感を生み出してしまっている。掲載誌の本誌『ZERO_SUM』の作品だけでも、異世界の国々の仕組みには『Landreaall』(おがきちか)の気配(王位継承権、そこだけ細かい設定なのか)があり、魔法の理論や現代世界での反映と扱いにおいては『LUWON』(南澤久佳)の影響が匂わないでもない。牽強付会かどうか、自分でも瀬戸際に思うので、そうした点に個性はまだ見られないという意味だけでもいい。

Landreaall 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

Landreaall 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

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 さきにも書いたように、「他人とは決定的に違う、自分」を自分自身どのように世に処していくべきか、そうしたミクロの問題は、内容的にも感覚的な描写においてもこの作品の魅力となっている。
 過去に自分で吹聴した転生を"黒歴史"として火消ししてすり替える描写、邪気眼的な魔法による復讐を否定する描写――そしてさらには、「この世界のやり方で」と、モップを掲げて喧嘩に挑んでいく姿。
 過去における高潔な王女としての描写は凡庸だ。けれども、その高潔さが現代の学校の特性と響きあうとき、作品は一瞬の輝きを見せる
 1巻の終わりでは、同じく異世界の記憶を持つ同級生たちが覚醒し、事態が動き始める。物語が進み、異世界が前景化すればするほど、そうした魅力が褪せていくであろうというこの予感を、裏切って貰えたら嬉しい。